◆◇◆福来るの話◆◇◆

▼美味くて高くて怖くて可愛い?お魚
皆さんが持っているフグのイメージはやはり、「美味くて!?高くて!怖い!」そして「膨れた姿が可愛い」ということでしょうか。昔からフグについてはいろいろなことが言われています。

▽その味わいと毒の世にすぐれたれば、くう人を無分別ともいい、くわぬ人を無分別ともいえり
▽フグは食いたし命は惜しし
▽その味一死に値す
何とも強烈ですね。でも毒のある部分などがよく知られていなかった昔は、フグ毒でたくさんの人が命を落としたようです。それでも食べたという人間の食欲というのは大変なものですね。また、そんな危険を冒してまでも食べたいほど美味いということなのでしょう。

フグは釣りをする人には、外道としてもお馴染みですね。もちろん、持ち帰って自分で料理などはしないと思いますが、フグ調理師免許を持たない人は決して調理をしないということさえ守れば、無闇に怖がることはありません。安全で美味い魚なのです。ただし、種類を限れば確かに高いですが。

なぜ「河豚」なのか
フグを漢字で書くと「河豚」とするのが一般的ですが、なぜ海ではなくて河なのかと素朴に思う方も多いと思います。これは豚に匹敵するほど美味い川魚だからとうことで付いた中国名です。中国、朝鮮には毒性の弱い淡水産のフグがいて、古くからこれを食べたそうです。ところが現在の中国では、一般にフグ食は禁じられています。一箇所だけ公認のフグ料理店があり、中国の伝統の味を守っているそうです。

日本名のフグという名は、そのものズバリ、腹が膨れることから付きました。今でも九州方面では濁らないでフクと呼びます。また、江戸時代にはテッポウという異名もつきました。これにあたると必ず死ぬからという江戸っ子の洒落です。ちなみに「フグちり」のことを「てっちり」と呼ぶのもこのためです。

フグの種類は
フグの代表選手といえば<トラフグ>。別名ホンフグ、マフグとも呼ばれます。あの黒いまだら模様のあるフグです。フグの中でも最も美味とされ、価格も他のフグの追随を許さぬほど高値です。先日小売店をのぞいてみたら、刺身1パック1人前(薄造り21切れ、身皮少々、薬味付き)が980円でした。

他にもいろいろいるのですが、小売店でよく見かける種類を紹介しましょう。
<ショウサイフグ>別名ナゴヤフグとも呼ばれます。丁度いまごろから冬の間、船釣りの対象として人気があります。(持ち帰るときは大抵、船宿の調理士免許を持った人にさばいてもらいます。)刺身、フグチリの他、干物として加工されたものもあります。
<マフグ>別名ナメラ、アカメフグ。大型のものは一見トラフグに似ています。普通トラフグの代用として、広くフグ料理に利用されています。
<シロサバフグ>フグの中では比較的安価で、刺身、フグチリの他、干物や揚げ物用など広く利用されています。
フグの味は淡白ですが、種類によって歯ごたえと味が違います。これが値段の差になっています。でも、よほど食べなれた人でない限り、刺身を食べて種類を当てることはできないと思いますよ。

フグ毒はやっぱり怖い!
さて、問題のフグ毒ですが、名前をテトロドトキシンと言います。これは自然毒としてはもっとも強く、青酸カリの数倍とも数百倍ともいわれます。こんなに差があるのは、種類とか季節とかで大きく違うからです。そして、この毒は主に卵巣、肝臓に含まれ、煮ても分解せず、食べると消化管から吸収されて中毒を起こします。その症状は、食後20分から3時間ほどで唇や舌がしびれ始め、次にしびれは手足に回り、ついには呼吸困難になり、死に至ります。

この毒に効く薬はいまだにありません。でも発症してからすぐに人工呼吸を続けながら血圧を維持して、8時間持ちこたえることができれば急速に回復し、後遺症も残らないそうです。

ところで、護身用であるはずの毒が、自分が食べられてしまわないと、その威力を発揮できないというのは・・・?何とも不可解ですよね。

養殖フグは無毒?
フグ毒は、フグが外から取り込んだ細菌が体内で毒を作る場合と、エサの中にすでに毒素ができている場合があるらしいことが分かってきました。このため、完全に隔離された生簀(いけす)で養殖されたフグは無毒に近いものもいます。でも、これを調理する場合でも、もちろん資格を持った人でなければなりません。

フグの昔話
怖いもの見たさとか、ダメと言われると隠れてもしたくなるというのは、いつの時代も変わらないもので、フグを食べたことはその典型です。あまりにも軽率にフグを食べ、命を落とすものが絶えなかったため、武士はフグを食べてはならないとされていたにもかかわらず、実際にはかなり頻繁に隠れて食べられていたようです。長門藩(山口県)では、フグ毒で死んだ者の家は永久に断絶という掟があったとか!

また、フグ毒に当たった場合の治療法としてこんな記録もあるそうです。
▽患者を丸裸にして首だけ出して土に埋める!
▽黒砂糖をたくさん食べさせる!
▽会津産のロウを食べさせる!
▽人糞を食べさせる!
エーッ!これでは健康な人も中毒になりそうです!

フグ料理の話
▽フグの刺身はなぜ薄く造るのか
青磁の皿の模様が透けて見えるほど薄く造るのは、フグが高価であるためではありません。身が締まっていて、薄くないとよく噛み切れないためです。

▽フグの刺身は引くと言う
ふつうの刺身は「切る」と言いますが、フグの場合は「引く」と言います。それは、フグの身をまな板に直角に置いて、包丁を手前に引いて薄く造るからです。そして、一枚々々のフグ刺しの縁が厚く、中が薄く見えるのは、厚さの違いではなく、縁を立てているからです。これは熟練しないとできません。また、フグ刺しのために、刃先の柔らかい「フグ包丁」というのが特別にあるくらいです。

▽フグのヒレ酒、白子酒
カラカラになるまで干したフグのヒレをこんがりと焼き上げます。グラスに焼きたてのヒレを入れ、熱燗の酒を注ぎます。両方とも熱々であることが旨さのコツです。そしてヒレはほどほどで取り出し、二杯目、三杯目にも使えば、程良い香りと旨味が出ます。アッ誰ですか?今つばを飲み込んだのは。そして白子酒。こちらはフグの白子に煮えるくらい熱い酒を注ぐと、どろっとしたドブロク状の白子酒になります。白子の旨味が解けだして、それはもうたまりません!

■メールマガジン<お魚よもやま情報>2000年12月号