◆◇◆東の横綱の話◆◇◆

アンコウってこんな魚です
アンコウの顔や姿を皆さんはすぐに思い浮かべることができますか?最近では小売店も、鍋用に加工、パックされた製品を並べているところが多く、一昔前のように店内で調理することがめっきり減ってしまったので、姿を目にする機会が少なくなりました。そんな切り身になったアンコウの目利きのポイントは、身が淡いピンク色で透明感があることです。鮮度、品質の良いアンコウの身は実にきれいですよ。

▽さて、アンコウの棲み家は種類によって違いますが、水深数十mから500mの海底の砂の中です。砂に身を埋めて、顔にある「釣り竿」を揺らめかせ、餌と間違えて寄って来た魚をガバッと一飲みにしてしまう、とても迫力のある魚です。この「釣り竿」は、背ビレの第1棘(きょく)が変形して長く伸びたもので、おまけに先端は皮弁が餌状をしているというスグレ物です。ちなみにアンコウの英語名は「anglerfish:釣りをする魚」と言います。そしてアンコウの釣りの対象となっているのは、底魚、タコ、イカ類、サバやイワシなどです。

▽ところで、提灯鮟鱇(チョウチンアンコウ)の提灯はなぜ光るのか?それは釣り竿の先端にふさのような発光器を持っているのです。発光は、体内の化学変化による腺細胞から出るリンを含んだ物質が、血液中の酸によって酸化されて生じます。この発光体のまわりに反対層があって、そこで反射した光が前方にあるレンズに集まって明るく照る、というよく判らないけれど、とにかく驚くべき仕組みを持っているのです!発光する目的はもちろんエサを集めることが主です。

▽アンコウがどうしてこんなに優れた釣り竿を持つようになったかというと、その名前の由来が教えてくれています。それは、暗愚魚(あんぐうお)、つまり「おろか」、動きが鈍いということです。自分が素早く動けない代わりに、エサを獲るためのとびっきりの道具を授かったわけです。

▽江戸時代の川柳に「魚へんに安いと書くは春のこと」というのがあります。これは、アンコウの旬は冬だが、その時季は値が高くて庶民は口にできない。食べられるのは味が落ちた春になってからだということを、鮟鱇の漢字になぞらえて皮肉ったものです。また、同じようにアンコウの旬を指す言葉に「アンコウは梅が咲くまで」というのもあります。

吊るし切り(つるしぎり)
ブヨブヨ、ヌルヌルのアンコウのさばき方は独特です。吊し切りといって、横木からぶら下げた鉤(かぎ)に下アゴを引っかけて吊し、重し代わりに水を口から溢れるまで入れ、安定させます。そうして口から皮をはぎ、エラと尾を落とし、腹を割いてキモを取り、身を切り取ります。最後に水で風船のように膨らんだ胃袋を刺すと水がほとばしり出るので、そのまま包丁を洗うことができるという江戸時代から続く秘伝の技です!これでアンコウはアゴと背骨だけの姿になってしまいます。

七つ道具
「アンコウは唇ばかり残るなり」と川柳に詠まれている通り、大骨を除いてほとんど食べ尽くされます。アンコウの「七つ道具」と言われているのは、肝(きも:肝臓)、とも(ひれ)、柳肉(ほお肉、身肉)、ぬの(卵巣)、水袋(胃袋)、えら、皮です。つまり骨と腸以外ほとんど全部ですよね。

海のフォアグラ
ご存知のフォアグラは、ガチョウの肥大した肝臓でフランス料理に使われる高級珍味ですよね。海のフォアグラといえば、そうです!アンコウのキモなんです。ねっとりとした濃厚な味わいはまさに美味!アンコウ鍋セットの中にほんのチョッピリ入っているアレです。ちなみにアンキモ100g当たり445kcalもあり、脂質41.9gでビタミンA、Dを豊富に含んでいます。また、魚河岸ではアンコウの価格はキモの大きさで決まると言ってもいいほどで、セリ場に並ぶアンコウはみな腹を割いて、キモを見せているんです。

アンコウ料理
アンコウの代表料理といえばもちろんアンコウ鍋!七つ道具を鍋に入れ、春菊、長ねぎ、大根、焼豆腐などといっしょに、醤油仕立てで煮るのが一般的ですね。ほかに日本の代表的な郷土料理としては、常磐地方の「どぶ汁」、「とも酢和え」が有名です。どぶ汁は味噌仕立てにアンキモを溶かして入れる鍋料理、とも酢和えは、蒸したキモを焼いた味噌にすり込み、甘酢と合わせたタレに熱湯を通した身や皮をつけて食べる料理です。(旨そう!)また海外、とくにヨーロッパでも古くからアンコウ料理は好まれています。頭はスープのダシ、身はグリル、蒸し煮にされロブスターと並び賞されるほどだそうです。また、肉質がカモ肉に似ているともいわれています。ああ、それからもう一つ。アンキモのにぎり寿司、食いてェ〜!失礼!


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2001年1月号