◆◇◆女房質に置いても初鰹の話◆◇◆

カツオってこんな魚です
カツオといえばほとんどの方がその姿を思い浮かべることができると思います。いかがですか?いかにも早そうな流線形の体、黒い背中と銀色の腹に入った鮮明な縞模様・・・そうですよね。でも、あの縞模様は海の中を泳いでいるときにはありません。あれは死んだ後に現れる模様なのです。かつて、カツオの記念切手が発売されたときに、この縞模様がなかったことが論議を呼んだそうです。カツオに縞模様がないのは不自然だと。ところが、切手をデザインした高名な画伯は自然のまま「生きているカツオ」を描いたのです!かく言う私も縞模様のないカツオを実際に目にしたことはありません。

堅い魚?
カツオは日本では古代から親しまれてきた魚で、日本書紀や万葉集にも堅魚(カタウオ)として登場します。傷みが早いため昔は生のままでは食べることができず、干し魚として食べられていました。「鰹」という漢字は、煮ると身が堅くなってしまうこの堅魚から来たと言われています。そのカタウオが変じて「カツオ」となったわけです。ちなみに、この鰹という字は中国ではウナギのことです。他に松魚とも書かれます。これは鰹節の質感が松材に似ているからです。また、戦国時代には縁起を担いで勝魚という字を当てていました。

上りガツオと下りガツオ
カツオは幼魚から若魚期を生まれ故郷の南方海域で過ごします。そして、二歳の青年期になると、黒潮に乗ってイワシ等のエサを求めて長い北行の旅に出ます。2〜3月に沖縄周辺、4〜6月にかけて鹿児島、紀伊半島、伊豆諸島、房総半島、東北地方へと長旅を続けるのです。ただし、今年のように行き先に冷水塊があって黒潮が蛇行したり、海水温が低かったりするといつもの道筋を通らず、不漁になってしまうわけです。この北に向かうカツオを上りガツオと呼び、秋にユーターンして南下するカツオを下りカツオとか戻りガツオと呼びます。一般的に下りガツオは、エサをたくさん食べて大きく育って、脂が乗っています。ただ、中にはこの大回遊をしないで、八丈島周辺にとどまって一年を過ごす群れもいるようです。

初ガツオって?
最近小売店の店頭では、「初ガツオ」と表示される時季が随分早くなっています。2月下旬頃にはすでに見られますね。これは季節の先取りをアピールするためで、あまり深い意味はないようです。年があらたまって、まとまった漁のあった時のカツオを初ガツオと称しているようです。本来は黒潮に乗って北上し、5月頃に相模湾で獲れるカツオを指していました。江戸時代には鎌倉の海から夜駆けで江戸に運ばれ、初鰹として珍重されたのです。でも漁法や輸送手段が発達した現在では、いい加減出回った後の5月に初鰹というのは確かに遅すぎ?ますね。

江戸っ子の心意気!?
江戸時代のカツオの人気たるや、相当のものだったようです。  「カツオは刺身 刺身はカツオ」 「女房 質に置いても 初鰹」 「俎板(まな板)に小判一枚 初鰹」  などと凄まじくも滑稽な句が残っています。天明の頃の初ガツオの値段は、1尾2両3分で、何と当時の下級武士の年収に匹敵する値段であったといいます!競い合って初物を買い求めようとする姿は、まさしくバブルですね。

カツオのたたきのルーツ
今やカツオ料理の定番となっているタタキは、高知県の名物料理でもあるのですが、そのルーツとはこんな話です。天生年間(1573〜1592)四国でカツオの刺身を食べて食中毒が発生し、たくさんの死者を出したという事件があり、時の領主がカツオを刺身で食べることを禁じました。ところが、どうしても生で食べたいという者が、火を通せば生ではないとして、表面だけあぶってごまかしタタキを作って食べたのが始まりといわれています。とくにニンニク・ネギなどを添えたのは毒消しのためであるとされています。

カツオ漁
カツオの代表的な漁法は、一本釣りと巻き網漁、引き縄漁です。詳しい漁法は省きますが、とくに鮮度や見た目を重視する最近の市場の風潮では、巻き網物よりも一本釣り物が高値になる傾向にあります。小売店では産地表示はしますが漁法までは滅多に表示していませんし、サクや刺身にして販売するのですから、それこそ「品質はご覧の通りです。」ということなのでしょう。

カツオの最も美味しい時季は?
「春の初ガツオが一番」とか「秋の下りガツオの方が脂がのって美味い」、あるいは「一本釣りのカツオに限る」「いや、見た目は悪くても巻き網で獲ったカツオの方だ」などと諸説紛々です。秋の脂の乗ったカツオも実に美味いし、初夏の赤く透き通った身のカツオも香りが良くて本当に美味いと言うのが本音です。ちなみに最も美味しく食べられる刺身の温度は5度位です。一般的に初ガツオにはしょうが醤油に薬味のねぎか、にんにく醤油、脂の乗った戻りガツオはワサビ醤油で食べるのが美味いと言われていますね。

カツオの目利き
1尾丸ごとの場合は、魚体につやがあって、背中の黒色と銀色の縞模様のコントラストが鮮明であること。眼が澄んでいて、エラの中側がきれいな赤色であること、背中の尾に近い部分がザラッとしていることがポイント。また、全体がぷっくりと丸く、頭と尾が小さく見えるものは脂の乗りもいいです。次に、サクまたは節になっているものなら、血合いが黒くなく、赤というより朱色で鮮明な色合いであること。血合いが付いていない場合は、身の色が深い赤色で身が透き通るようであること。身が赤黒かったり、光を当てると虹のように光るものは鮮度が落ちています。

カツオパワーと料理
元気の出るカツオパワーを紹介しましょう。カツオには筋肉や内臓を作る良質なタンパク質が豊富に含まれています。疲労回復や神経に作用するビタミンB1、骨粗そう症を予防するビタミンD、血液をサラサラにするEPA、貧血を防ぐ鉄なども含む、更年期障害にぴったりのお魚です!特に血合いに栄養素が集中していますので、できるだけ血合いも食べてください。
カツオ料理はお刺身、たたきの他照焼、生姜焼き、トマト煮、角煮、バター焼き、あら炊き、ねぎみそ風味、甘辛煮等々たくさんあります。一部を「お魚よもやま情報資料館」5月号で紹介していますのでご覧下さい。


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