◆◇◆ダンボの耳を持つ魚の話◆◇◆

ハマの魚河岸では本名の<シログチ>よりも<イシモチ・石持>と別名で呼ぶのが一般的です。通年獲れますが、今の時季、夏場が旬です。地元神奈川の他、淡路島や静岡、愛知県などから入荷しています。身の柔らかい淡泊な白身で塩焼きでも揚げ物でも美味しいのですが、何故か人気がありません。価格も安いです!皆さん、このお魚はねらい目ですよ。この夏のうちに是非食べてみて下さい!

イシモチってこんな魚です
イシモチはスズキ目・ニベ科に分類されます。体色は全体に銀色を帯びた淡い灰色をしていて、エラブタに黒い斑点があります。大きい物は40cmを超えますが、普通店頭で見かけるのは20〜30cmくらいでしょう。東北以南から朝鮮半島、東シナ海の水深20〜140mくらいまでの砂泥地がすみかです。5〜8月には産卵のため沿岸に来遊します。晩秋まで釣りの対象としても人気の高い魚です。

ニベ科の仲間には他にもニベ、オオニベ、キグチ、アカグチ、クログチなどがいて、外見もかなり似ています。一般的にはこれらの名前はあまり聞き慣れないかも知れません。でも、実は皆さんも知らない内に結構食べていると思いますよ。特にグチの仲間はカマボコ材料の主役級なのですから。今度、カマボコの原材料表示を見て下さい。グチがかなり登場しているはずです。

愚痴を言う魚!?
さて、シログチを漢字では<白愚痴>とも書きます。何故<愚痴>なのかというと、釣り上げられたときに出す「グーグー」というかなり大きな声が、まるで愚痴を言っているように聞こえるからだそうです。確かに釣られた魚の身になれば、愚痴も言いたくなりますよね。

ダンボの耳を持つ魚
では、別名の石持(石首魚)はというと、頭の中に、左右一対の硬くて白い大きな耳石(じせき)があることから付けられました。魚に耳があるのかと思われる人もいるかもしれませんが、どの魚も頭骨の中に内耳という音を聞き分ける耳を持っています。この内耳にあるのが耳石です。内耳は平衡感覚もつかさどっています。
イシモチに代表されるニベ科の魚は、この内耳が大きく、とりわけ大きな耳石を持っています。いわば<ダンボの耳を持つ魚>なのです!

グチも鳴かずば釣られまい
<鳴く>魚と言えば他にも、ホウボウ、イシダイ、カサゴなどたくさんいますが、これはもちろん声帯から出ているわけではありません。腹壁の特別な筋肉を振るわせて、その振動がウキブクロで共鳴して、大きな音が出る仕組みになっています。

イシモチは雌雄ともほぼ一年中鳴きますが、特に産卵期と危険を感じたときに良く鳴きます。人間の耳ではこれを聞き分けることは難しいですが、魚たちはもちろんコミュニケーションをとっているのですね。

この鳴き声の大きさは半端ではないようです。夜の海底で愛の大合唱が始まると、その船上では眠れないほどの音量だといいます。当然鳴き声のする所に居るわけで、「グチも鳴かずば釣られまい」というイシモチにとってはひどく迷惑な言葉さえ生まれてしまいました。

蛇足:「にべもない」とは?
「にべもない態度」という表現がありますが、もしかして「にべもない」の「にべ」って魚のニベ?と連想する人は、相当な魚好きです。実はそうなのです。

昔はこの大きな音を出す丈夫なウキブクロは、粘着力の強いニカワ(ニベニカワという接着剤)の原料になっていました。そこから「取り付きようのないこと」、「愛嬌のないこと」を「にべもない」というようになりました。

目利きのポイント
体全体がピンとして硬いこと。目が澄んでいること。エラが鮮やかな赤色であること。そして、ウロコがびっしり付いていることが目利きのポイントです。

骨まで柔らかく揚げるコツ <Enjoy Cooking>
イシモチは水分が多く、サッパリしていますので特に揚げ物に向いています。ですが大きめの魚を丸揚げすると、中まで火が通りにくいですね。まして骨まで柔らかくしたいというのであれば<2度揚げ>あるいは<3度揚げ>が必要になります。そのコツを紹介しましょう。
1)片栗粉ではなく、小麦粉を刷毛(ハケ)で薄く付けて1〜2分おいて馴染ませます。
2)油を低めの温度(150〜160度)に熱し、中火弱でじっくり揚げていったん取り出し、手で触れるくらいまで冷まします。<外側より中身の温度の方が高い状態にするわけです。>
3)そして、油を170〜180度に熱し、中火で揚げます。こうすれば中まで火が良く通って、骨まで柔らかく揚げることができます。後はお好みで、中華あんかけなどもいいですね。

●鮮度が良ければもちろんお刺身で。他にも塩焼き、煮付け、フライ、バター焼き、すり身等さまざまな調理法に合いますよ。

■メールマガジン<お魚よもやま情報>2002年8月号