◆◇◆左ヒラメの話◆◇◆

お馴染みのヒラメ、高級魚のイメージが強いですが、養殖や輸入物の増加で最近では、買いやすい値段に近づいています。小売店ではお刺身ばかりではなく、切り身として並んでいることもありますね。カレイ位の小さな物は、姿のままのこともたまにあります。ところで、このヒラメとカレイの見分けはつきますか?有名な?見分け方として<左ヒラメに右カレイ>という<眼>の位置で見分ける方法があります。この時の解説として「腹を手前にした時に眼(頭)が左側にあるのがヒラメで右側にあるのがカレイ」・・・エッ、腹を手前?ヒラメの腹って、どこのこと???(^_^;)

ちょっとした誤解!?
もしかして、こんな風に思っている人はいませんか? その一)ヒラメもカレイも眼のある黒い方が背中で、眼のない白い方がお腹。その二)ヒラメもカレイも生まれた時から平べったい姿をしている。こう思う方が自然ですよね。その方が安定しますから。ところが、そうでは なかったのです!

ヒラメってこんな魚です
ヒラメはカレイ目ヒラメ科に分類されます。世界には85種、日本近海には10種が分布しています。北は千島列島から南は南シナ海まで、各地沿岸の水深10〜200mの砂底が住みかです。夜行性で昼間は砂に潜って眼だけを出して休んでいます。夜になると鼻を働かせて、近づいてきたセグロイワシやイカナゴなどを大きな口で一呑みにしてしまいます。ヒラメのエサは他にも底魚や甲殻類など手当たり次第で、底魚の食物連鎖の頂点にいます。

ヒラメ族
話がいきなり変わりますが、ヒラメ族という言葉を聞いたことがありますか?普段は用心深く、常に上ばかり見ていて、チャンスが来るのをじっと待っている出世欲の強い人のことをヒラメの習性にたとえて指すそうです。でも、実際のヒラメ社会は、皆、砂底で同列の「横並び社会」ですよね。決して出世欲などありません・・・。

産卵
話を戻しましょう。ヒラメは出世ではなく成長の早い魚です。半年で20cmにもなります。1kg(約40cm)以下の1年魚を千葉や神奈川ではソゲと呼びます。大きいものは10kg(80cm)以上になります。産卵期は春から夏で、水深20〜70mの浅場で産卵します。丁度今頃、産卵前の冬には脂が乗って、白身のはずが飴色になります。タイのような甘味はありませんが、上品な旨味と歯ごたえが最高ですね!

ところで、ヒラメの研究は意外と進んでいないようで、オスとメスがどのようにして出会うのか、何時頃産卵しているのか、夏を何処で越しているのかなど解明されていないことばかりだそうです。あまりに身近にいて、養殖も容易だったため、かえって研究が遅れているのですね。

何と、眼が引っ越し!?
さて、卵からかえった子供の姿はというと・・・あれっヒラメ形をしていません。普通の魚、たとえばアジのように頭の両側に眼が付いていて、体形も平べったくないし、泳ぎ方も普通だし、両側の色も同じです。そうなのです。この時期のヒラメは海の底ではなく、表層でごく普通の姿で、ごく普通の生活をしているのです。

ところが、ふ化後1ヶ月ほどで右眼が頭頂部を超して左眼の方に移動するのです!ちなみに、カレイはこの逆、左眼が右眼の方に移動します。この大変身(変態)を経て、ヒラメは海底での生活に入ります。眼のある側の皮は保護色として砂の色と同化し、黒っぽくなります。裏側は真っ白です。というわけで平べったい本来の姿になったヒラメを正面から見た時に、眼は左側に片寄り、腹は右側にあるのです。カレイはこの逆ということです。ただ、例外がいます。ヌマガレイは日本近海に住むものは、カレイでありながら眼が左側にあり、東に行くほど右側に眼があるものが増え、カリフォルニアに住むものは左右の割合がほぼ半々になるそうです。う〜ん、何故こんなことになるのでしょう?

夏座敷とヒラメは縁側がよい/でも/夏ヒラメはネコも食わない
昔のことわざって本当に面白いですね。それも見事に的を射ています。エンガワというのは背びれと腹びれの付け根にある、泳ぐ時に使う筋肉です。弾力があって脂も乗り、1尾から少量しかとれないため昔から珍重されていました。夏座敷は風通しの良い縁側が一番だし、ヒラメも縁側が一番というわけです。店頭で「沖ヒラメのエンガワ」なるものを見かけることがあるかも知れませんが、沖ヒラメというのはいわゆる「業界名」で実際にはアブラガレイやカラスガレイ等のことでヒラメではありません。

夏ヒラメとは産卵のために浅場にやってくるヒラメのことで、栄養分を卵巣等に取られて味が格段に落ちています。それを誇張して「ネコも食わない」となったのでしょう。似たものに「三月ヒラメは犬も食わぬ」とか「五月ヒラメはもらっても食わぬ」(旧暦)というのもあります。でも今では各地のものが手に入りますし、養殖物もありますからこの限りではないですね。

ヒラメパワー全開!
ヒラメは、アミノ酸組成のバランスがよくて良質なたんぱく質を含んでいます。ビタミン類ではエネルギー代謝を促進するナイアシンが多く含まれています。また、エンガワは脂肪分に富み、コラーゲンが含まれています。身は淡白で低脂肪ですので美容食としても特におすすめです。

ひらめ料理
一番は何といっても刺身です。ただ、ワサビ醤油だとヒラメの微妙な旨味が消えてしまうのでおすすめできません。ポン酢醤油とアサツキ、もみじおろしで食べるのがベストです。上身の方が肉厚ですが、一般的に下身(白い方)の方が身が締まって脂の乗りもいいです。昆布締めもポピュラーです。また、バターを使った洋風料理にも最適です。火を通すと身がほどよく締まりますので、ムニエル、グラタン、ホワイトソース煮、フライなどにもどうぞ。今の時季ならしゃぶしゃぶもいいですね。アラでダシを取って雑炊、仕上げに溶き卵を落とせば、もう最高です!


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2003年1月号