◆◇◆江戸の春告げ魚の話◆◇◆

白魚と言えば、真っ先に思い浮かぶのは「白魚のような指」という言葉でしょうか。これはもちろん、透き通るように白く、ほっそりとした女性の指を喩えたものですが、肝心な白魚の姿は思い浮かびますか?小売店で刺身用として並んでいたり、寿司だねにもよく使われます。ただし、かなり高級品になってしまいましたね。

シラウオってこんな魚です
白く透き通ってほっそりした姿、全長はせいぜい10cm、こんな白魚はまるで稚魚のように見えますが、立派な成魚です。よく見ると、頭は小さく、とがっていて、その割には眼が黒く大きいのが目立ちます。メスにはウロコがなく、オスにも尾ビレに近い体側に15枚ほどのウロコが1列に並んでいるだけです。また、背ビレは腹ビレよりかなり後方にあり、その後方に小さな脂ビレがあります。この脂ビレを持つことがサケ目の仲間の特徴で、サケ目にはサケ科の他にシシャモやワカサギの属するキュウリウオ科、アユ科、ニギス科、そしてこのシラウオ科などがいます。透き通った美しい姿のシラウオですが、このように稚魚期の姿を残したまま成魚となることを「幼形成熟」といいます。

シロウオとは違う?
姿形が一見よく似ていて混同されやすいのがシロウオです。やはり白く透き通っていますが、頭は白魚のようにとがってはいませんし、脂ビレもありません。全長は白魚より小さく5cmほどです。こちらはスズキ目ハゼ科に分類されます。漢字名は「素魚」。姿が似ている上に名前も一字違い、おまけに生態も似ているところが多く、西日本では早春の風物詩として、シロウオ漁が毎年新聞やテレビで紹介されます。

生態・・・
シラウオは北海道から九州西岸まで、おおむね全国各地に分布しています。内湾や河口の汽水域が住みかで、早春の産卵期には川をさかのぼります。メスは河床の砂礫に産卵し、卵は粘着糸によって砂礫に付着します。この卵にオスが精子をかけるのです。産卵後親魚は疲れ果てて短い生涯を閉じます。一方、受精した卵は1週間から10日で孵化します。全長5mmほどの稚魚の誕生です。動物プランクトンをエサにして成長し、やがて川を下って河口付近や内湾で暮らすようになります。そして、1年で成熟して翌春には次の代の親魚として川をさかのぼるのです。

シラウオにはワカサギのように降海型と陸封型の二つのタイプがあります。陸封型では主産地青森の小川原湖や島根の宍道湖が特に有名です。宍道湖のシラウオは冬季にしかとれない、宍道湖七珍の貴重な一珍とされています。

江戸の春告げ魚
「月は朧(おぼろ)に白魚の篝(かがり)もかすむ春の宵」というのは、歌舞伎「三人吉三」の名セリフとして有名ですね。この「白魚のかがり火」とは、隅田川(当時は大川)に小舟を浮かべ、魚を集めるためにかがり火をたいたシラウオ漁の情景です。江戸時代のシラウオ漁は隅田川下流の佃島辺りが産地でした。大川、かがり火、シラウオ漁というのが江戸に早い春を告げる風物詩だったのです。

また、雛の節句の祝い膳には白魚のすまし汁、というのが江戸の風習となり、大正時代までは続いていたようです。その後、隅田川など東京の河川の水質汚染などでシラウオはいなくなりました。

しらうお特権!?
シラウオは徳川家、江戸佃島と深い縁で結ばれています。事の始まりには諸説あります。一説には、シラウオの頭部背面に見られる模様が徳川家の葵の紋に似ているように見える(^_^;ため、徳川家を象徴する魚として、家康によって保護されたというもの。一説には三河時代から家康の大好物だったシラウオを佃の漁師が、シラウオではないかと家康に献上したところ、江戸でもシラウオが獲れることを知って大喜びし、その後保護したというもの等々。
いずれにしても家康はシラウオが好物で、権力を誇示する一つとしてシラウオを御止魚(おとめうお)、つまり「自分の存命中は献上魚だけは獲っていいが、それ以外は禁止!」と命じたのです。これが特権階級?を生むことになりました。

シラウオ漁を許されたのは佃と京橋の二人の漁師の頭のみでした。この漁師たちには様々な特権を与えています。両者の縄張りを決め、独占的な入漁権を与え、舟の舳先(へさき)には「御本丸」などと書いた提灯を掲げて、他の漁舟を蹴散らしたそうです。さらに、獲れたシラウオは葵の御紋の御膳白魚箱に納め、天下御免と江戸城に駆け上がったのです。この時、大名行列を横切ることさえ許されたといいます。さらに、両者には屋敷が与えられ、当時干潟だった土地までいただき、そこを埋め立ててできたのが佃島です。このシラウオ献納は江戸時代の終わりまで続きました。
ところで佃煮は、このシラウオを始めとする小魚を佃で煮付けたのが元祖と言われています(^^)。

名前の由来・・・鱠残魚
シラウオの名前は見ての通り、生きている時は透明なのが、死んでしまうと白くなることから付いたようです。「鱠残魚」の表記は中国の呉王の逸話に由来します。呉王が大河を舟で行く途中、魚鱠(なます)を食べてその残りを川に捨てたところ、それが化して魚になりました。これを「鱠残」と名付けたのです。そうです。和名シラウオのことです。

シラウオの種まき
古典の中に「白魚は種をまけば生ずるものである」という珍説もあるそうです。水戸光圀が江戸で食べた白魚を忘れられず、隅田川で獲れた白魚の干した物を取り寄せ、常陸の川の砂に埋めたところ、翌年には白魚が生まれて、以来、絶えることがないと記されています。

目利きのポイント
透明度が高くて張りのあるもの、眼がくっきりと黒いものが新鮮です!すっかり白くなっていたり、身がだらっとしているものは避けてください。

調理のコツ・・・
繊細なコワレ物です。扱いは丁寧に。調理する前に薄い塩水で軽く洗い、ザルに上げて水切りしてから使ってください。揚げ物にする場合は、布巾でそっと水気を取ってください。料理用途は、まずは刺身!ワサビ醤油、酢みそ、生姜醤油もいけます。酢の物、天ぷら、フライ、吸い物、卵とじも絶品!繊細な味わいですので、味付けは薄目に。醤油を付ける時もチョットにした方が良いと思います(^^)。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2005年2月号