◆◇◆梅雨の水を飲んでうまくなる魚の話◆◇◆

コンコンチキチン、コンチキチン…と祇園囃子(ぎおんばやし)が聞こえます。7月の京都は祭一色です。16日の宵山は11年ぶりに土曜日と重なったこともあって、京都四条通り一帯は52万人を超す人出で埋まったそうです。そして翌17日にはクライマックスの山鉾巡行です。京都の祇園祭は別名ハモ祭とも呼ばれます。祇園祭に、京都の夏に欠かせぬ魚、それがハモです。

ハモってこんな魚です
東日本の人にとってハモは馴染みの薄い魚です。当魚河岸でもこの時季の一番人気は圧倒的にウナギ、そして江戸前のアナゴ。姿形は似ているのですが。ハモはと見渡してみると、ありました。原形をとどめてはいませんがハモの湯引きがパックされたものが。小売店で一般的に仕入れるのはこのパック品です。その他ハモは活魚として毎日入荷しますが、これはもっぱら料理屋さん向けです。そんなわけでハモの姿を知らない人の方が多いと思います。

ハモはウナギ型ですが、やや平べったい円筒形で、尾に近づくほど平べったさを増します。背ビレと尻ビレはそれぞれ尾ビレへと境目がなく連なっています。腹ビレはなく、ウロコもほとんどありません。灰褐色の背に白い側線が走り、腹は銀白色です。口先は細長くとがり、深く避けた大きな口には鋭い歯がズラリと並んでいます。歯が大きすぎて口を完全に閉じることができません(@_@;)。 かなり怖い顔です。 姿や色も似ているアナゴと比べると、アナゴの顔が実に優しげに見えます。

ハモはノミの夫婦です。メスは10年で1m、オスは70cm位になり、最大では2mを超えます。市場に出回る50〜60cm以上になるには5〜6年かかります。

生態・・・まだ、解っていないことが多いです
ハモはウナギ目ハモ科に分類されます。熱帯域を中心に世界に8種、日本にはハモの他、スズハモとハシナガアナゴの3種が分布しています。青森県以南の日本各地、シナ海、インド洋の水深100m以浅の大陸棚砂泥底が住みかです。日本では東シナ海と瀬戸内、紀州以南の太平洋側が主な漁場で、関東以北と日本海側では少ないです。

昼間は砂泥底や岩陰に潜み、夜になるとエサを求めて活発に行動します。エビやカニなどの甲殻類や、イカ、タコ、魚類を鋭い歯で捕食します。成長すると好みが変わるようで、捕食する8割が魚類主体になるそうです。

産卵期は地域によって異なりますが5〜9月に水深35〜60mの砂泥域の底層で行われます。産卵数は3年魚で30万粒、5年魚で58万粒、10年魚で116万粒と、加齢にしたがって増加することが研究によって解っています。卵は中層を浮游し、2日間以内にふ化します。その後1ヶ月強でウナギやアナゴと同様、透明な柳葉状のレプトセファルス期に入り、さらに15日位後に成魚の姿に変態します。その後はしばらく行方不明?です。
産卵期に瀬戸内にやって来る群れは、10月以降は越冬のために豊後水道から南下するものと考えられていますが、確かなことまだは解っていません。

凶暴につき・・・
ハモの気性の荒さはよく知られています。漁は底引き網や延縄漁が中心ですが、引き上げられたハモの顔の前に手をもっていくことは禁物です。いきなり噛みつかれるからです。危ないので、釣り糸からハモをずすことはせずに、糸を途中から切ります。このため、市場に入荷したハモの口には糸の切れ端が下がっています。また、生きている魚の頭の後ろに深く包丁を入れ、即殺することを活〆といいますが、ハモの場合、この活〆した後でもまだ噛みつくことがあります。あの鋭い歯で噛みつかれたら、病院に直行して何針か縫わなければなりません・・・(¨;)。

梅雨の水を飲んでうまくなる!
ハモは昔から「梅雨の水を飲んでうまくなる」と言われます。これは産卵期を迎える入梅時から脂が乗り始め、身が柔らかく美味しくなるからです。そして産卵後、体力が回復して再び食欲の増す秋にはさらに脂が乗って2度目の旬を迎えます。この時季のハモは「松茸ハモ」、「金ハモ」、「名残ハモ」と呼ばれます。初がつおと戻りがつおのようですね(^^)。

ハモの故郷は京都!?
祇園祭はなぜハモ祭とも呼ばれるのでしょう。それは京の料理名人がハモの類い希な強い生命力と出会ったことから始まります。ハモは気性が荒いばかりでなく、生命力が強いことでも群を抜いています。皮膚呼吸ができるため、1日水がなくても生きているほどです。江戸時代、内陸の京都に瀬戸内から活魚として届けることができるハモはとても貴重な魚でした。身の中にビッシリと小骨の多いことなど何のその、京の料理名人は創作意欲をかき立てられて、次々と新しいハモ料理を生み出したのです。そうです。祇園祭の時季に旬を迎えるハモ、そのハモ料理の故郷は京都だったのです。
以来、今日に至っても祇園祭に欠かせぬものは「祇園囃子とハモ料理」なのです。大阪の天神祭にとっても京都と同じく、ハモはなくてはならないご馳走です。

職人芸−−−骨切り
ハモの調理は難しい!何が難しいかって、もちろん「骨切り」です。一般家庭では到底無理です。相当熟練したプロの腕前が必要です。この骨切りは昔から「三寸を二十四に包丁する」と言われます。何と4mm弱の間隔です。それも皮を切らないで残すのです。「シャキン、シャキン、シャキン」と骨を切る金属音をリズミカルに響かせながら、素晴らしいスピードの包丁さばき、この職人芸には驚嘆します。
関東ではいまだに少ないですが、関西では骨切り済みのハモが店頭に並んでいますので、そこから先の料理はもちろん家庭で容易にできます。

名前の由来
ハモは「鱧」と漢字表記しますが、この字は中国では「ライギョ」を指します。中国でハモは「海鰻(ハイマン)」です。このハイマンが転じてハモとなったという説もあります。広辞苑には「古名はハム。ハミ(蛇類の総称)と同語源」とあります。これらの内どれかが由来なのでしょう。ちなみに、英名は「pike eel」。直訳すると「 槍のように先のとがったウナギ」です。そのものですね。

ハモパワー全開! ウナギの仲間達は栄養豊富です!
ハモにとりわけ多い栄養素には、カルシウム、良質タンパク質、鉄分、DHA、EPA、リン、ビタミンB1、B2、コンドロイチンとまさに栄養の固まりです。コンドロイチンやEPAは特に皮膚の老化防止に役立つことが知られていますね(^^)。皮から骨まで捨てるところのないハモです。すべて食べ尽くして夏バテ知らずといきましょう。

おすすめクッキング
鮮度の良い骨切りハモが手には入ったら、いよいよ料理に挑戦です。用途は広いですよ。まずは、さっと湯通しして氷水で締める湯引き(ハモの落とし)、これは梅肉ダレでいただきます。次に蒲焼き。ただし、うなぎの様に焼くとパサパサになるだけです。強火の遠火で短時間に焼くのがコツです。外側はカリっと内側はシットリとする様に焼いて下さい。白焼きしただけでワサビ醤油というのもサッパリとして美味しいです。湯引きしたハモを細く切ってサラダ風に、他にも天ぷら、唐揚げ、酢の物、吸い物等々。かつての惣菜魚が高級魚になってしまったハモですが、ご家庭で割安に楽しんで下さい。

■メールマガジン<お魚よもやま情報>2005年7月号