◆◇◆餌盗人!の話◆◇◆

カワハギは当市場では通称本ハギとして通年入荷しています。活魚や丸物での流通で、主に料理屋さん向けです。これから鍋物需要で量が増えてくるのは頭を取って皮を剥いてある、通称ムキハギです。こちらは小売店の定番品ですからお馴染みでしょう。そんなわけで皮を剥いていないカワハギの姿やムキハギは実は別物だということを知らない人が多いのかも知れません。

カワハギってこんな魚です・・・つぶらな瞳におちょぼ口
体高が高く体長が短い菱形で側扁しています。唇を突き出したようなおちょぼ口でつぶらな瞳は藍色です。眼の後方にある第一背ビレはまるで細い角かアンテナのように見える棘があり、ずっと後方の第二背ビレにはオスは糸のように長く伸びる軟条を持っています。このためオスメスの見分けは容易です。そして尾ビレは扇形でかなり愛嬌のある姿です。

皮はサンドペーパー
体色は暗褐色で焦茶色の斑紋があり、皮は厚くざらついています。一見ウロコが無いように見えますが、このざらつきこそ絨毛(じゅうもう)状に皮と一体化したウロコなのです。剥いだ皮を乾燥させると、ワサビを下ろすことなど朝飯?前です。戦中戦後期にはサンドペーパーの代用品だったといいます。

こう見えても怒ると怖い!?
普段は愛嬌のある容姿ですが厳しい自然界の中、身を守るすべは備えています。それも十分に(^_^;。カワハギは外敵に会ったり、自分の縄張りを他人が侵そうとすると途端に怒り出します。眼をつり上げているかは分かりませんが、例の角を直立させて怒りをあらわにするのです。この角の威力を侮ってはいけません。ゴムボートの厚いゴムなど簡単に突き通してしまいます。大きな魚が飲み込もうものなら、ノドを突き刺すのでしょう。

また、ざらついた厚い皮は身を守る鎧です。何しろサンドペーパー並なのですから外敵にとって食いちぎることも、丸飲みにして消化することも難しいのです。このことは魚類の世界には知れ渡っていて、ゆったりと泳ぐカワハギを横目で見ながらもエサにしようとする大型魚は滅多に見当たりません。

海のフォアグラ
強固な鎧に守られた身は透き通るような白身で、締まりがあってくせがなく、フグに匹敵する美味さです。それほどの身肉を持ちながら尚、カワハギの価値は「肝」だと人は言います。その美味さは命がけで食べなければならないフグの肝と同等! ねっとりとしたコクのある味わいは同じく海のフォアグラと称されるアンコウの肝にも勝ると絶賛されます。この評価を与えている人に左党が圧倒的に多くても致し方ありません。酒の肴に最適なのですから。

カワハギの肝は他の魚と比べものにならないほど肥大化します。その時期は真冬です。運動量の少ないカワハギは身に栄養を蓄える必要がなく、その分 冬の寒さと春以降の産卵に備えて肝臓に蓄えるのです。

生態・・・
美味さはフグに匹敵するという話をしましたが、それもそのはず?カワハギはフグ目カワハギ科に分類されます。日本では北海道以南から東シナ海に分布し、沿岸の岩礁帯やその周辺の砂地の混ざった浅い海が住みかです。産卵期は5〜8月で、藻場で産卵します。卵におちょぼ口から水を吹きかけ掃除をしながら守るのは母親の役割です。2〜3日後にふ化した稚魚は流れ藻の下に群がり浮游生活を送りながら、動物性プランクトンなどを食べて成長します。秋には5cm位になって岩礁地帯に定住し底生動物が主食になります。

成長は早く、1年で18cm、2年で22cm位になって成熟します。最大では30cm以上になります。カワハギの食欲は旺盛です。厚い唇のおちょぼ口の中には頑丈な歯が生えそろいアゴの筋肉も強力です。好物のエビやカニといった甲殻類や貝類など硬いものもバリバリと噛み砕きます。ウニも好物であのハリネズミのような棘を硬い歯に挟んで引き抜き、中身だけを食べてしまいます。

カワハギの仲間たち
同じ科のごく近い仲間にはウマヅラハギやウスバハギなどがいます。当市場の通称ムキハギとはウマヅラハギのことです。名前の通り馬面(頭部が長い)で、カワハギより体高が低くスマートです。1970年代の異常発生以降、干物や乾き物に加工してカワハギとして売られるようになってから全国で食べられるようになりました。身はカワハギに比べてやや水っぽく、臭みがありますので揚げ物や鍋物、みそ汁等に向いています。両者の違いは頭を取って皮を剥いていても尾ビレを見れば一目瞭然です。ウマヅラハギは青緑、カワハギは茶褐色です。

カワハギ病に要注意!
「カワハギ病」というやっかいな病気に釣り好きは一度はかかるといいます。これはカワハギの持っている○○毒が・・・というのではなく、言わば恋の病です(^^)。世の釣り人たちがカワハギに与えた尊称?は「エサ泥棒」、「エサ盗人」、「エサ取り名人」そして「一度はかかるカワハギ病」です。釣り針の先のエサだけを何度も何度も盗み取られた釣り人の口惜しげな顔が思い浮かびますね(m_m)。かくもカワハギ釣りは難しい、イコール面白いということなのです。

餌盗人の秘密
なぜそれ程までに、カワハギはエサを盗むことが上手いのでしょう。その秘密は頑丈な歯とヒレにあります。カワハギは素早く泳ぎ回れない代わりに、ホバリングができます。そう、ヘリコプターが空中で静止する体勢です。背ビレと腹ビレの動きを調節して静止できるのです。このため、ガバーッとエサに食らいつかず、おちょぼ口でツンツンとエサをつつき、頑丈な歯で噛み取るのです。釣り人が隙を見せていると、あっという間にエサだけ盗み取られると言うわけです。このカワハギとの駆け引きが釣り人を病み付きにさせるのです。

旬はいつ?
カワハギは一年を通して身質があまり変わらないため、旬の時季にも諸説があります。産卵後に体力が回復してきた頃、7〜8月の夏のカワハギは透き通る身が涼しげで、弾力があってまさしく旬の味わいです。また11〜2月頃には肝がどんどん大きくなって、これぞカワハギの真骨頂、旬なのです。

名前の由来
これはもうそのものズバリです。硬い鎧のような皮を剥いで食べることが由来です。昔から馴染みの深い魚ですので、各地にたくさんの別名があります。面白いところでは、カワをはぐ−身ぐるみ剥ぎ取る−バクチで負けるという連想からバクチ、バクチウチ。他にもキンチャク、ツノコ、ハゲ、ウシヅラ等々。ちなみに英名は<filefish>直訳すれば<ヤスリ魚>です。

目利きのポイント
皮が厚く死後も体色の変化が少ないため目利きが難しい魚です。ポイントは眼に透明感があること、皮がざらついていて張りがあることです。皮を剥いてある場合は身の色に透明感があって黄ばんでいないこと、張りのあることがポイントです。

おすすめクッキング
鮮度の良いカワハギが手に入ったら、迷わず刺身です!それもキモ醤油で!キモはさっと蒸してからすりつぶし醤油と酢、後はお好みで酒などを加えて和えます。これに薄造りにした刺身をつけて食べます。これは絶品です!煮付けの場合は濃いめの味付けが向いています。塩焼きの場合は皮を剥かずにじっくり焼くと、ホイル焼きのように身がジューシーに仕上がります。食べる時に箸で皮を剥きます。その他、空揚げ、フライ、ちり鍋も美味い(^^)。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2005年10月号