◆◇◆口ばかりではない魚の話◆◇◆

カサゴは一年を通して釣り魚として人気があります。皆さんが小売店で見かける機会も多いと思います。ただ、大量に獲れる魚ではありませんので、残念ながら惣菜としては高いようです。身近でいて食べたことがない魚の一つなのかも知れません。そんな方のためにも今回はカサゴの魅力を紹介しましょう。

カサゴってこんな魚です
頭、眼、口、ヒレが大きく、頭から背にかけては鋭いトゲがあります。体色は暗褐色から赤褐色まで様々ですが、ゴツゴツ、トゲトゲしたかなりの強面です。でもよく見ると愛嬌があるようにも見えます(^_^; 。体長は25cm位になり、寿命は7〜8年と言われています。北海道南部以南から南シナ海の沿岸域、岩礁地帯に分布しています。

カサゴはカサゴ目フサカサゴ科カサゴ属に分類されます。カサゴ目は世界で20科1200種に及ぶ大所帯で、日本には20科360種が生息しています。メバル・メヌケ・マゴチ・ギンダラ・アイナメ・ホウボウなど多彩な顔ぶれの仲間がいます。ごく近縁では、アヤメカサゴ・ユメカサゴ・ウッカリカサゴ・オニカサゴなどがいて、いずれも食用にされています。

生態・・・
カサゴは潮間帯から水深80m位までの岩礁地帯に住んでいますが、成長につれて住み場を変えます。生まれて間もない稚魚期には藻場にいて動物性プランクトンを主食にします。2〜3cmになると岸近くの転石地帯に移動し、やがて縄張りを作って単独生活に入ります。次第にエビやカニ類、イカ、小魚など何でも食べるようになります。昼間は岩陰などでじっとしていて、夜になるとエサを求めて活動を始めます。1年で7cm、2年で14cm位になって成熟し、3年で17〜18cm、4年で20cm位に成長します。この間に住み場はだんだん深場に移り、体色は黒褐色から赤褐色へと変化していきます。

ちょっと変わったカサゴのお産
カサゴは産卵ではなくお産です。卵ではなく稚魚を産み落とすのです。たくさんのオスから求愛を受けたメスは、たった1尾だけを選び抜いて秋も深まる頃交尾をします。メスの体内の卵は3〜4回に分かれて成熟し、順次受精します。孵化した幼魚は約1ヶ月間、体内で卵黄から栄養分を受けて4mmほどに成長し、冬から早春にかけて海中へ産み放たれるのです。その数は一度に数千から数万尾といわれ、これを約15日間隔で3〜4回繰り返します。これを卵胎生と言いますが、カサゴの仲間のメバルやクロソイも同様です。

旬と産地・・・
カサゴは一般的には冬が旬の魚とされ、季語は春です。1月〜4月に最も脂が乗り、沖の赤より磯の黒の方が美味いと言われます。しかし、南北に長い日本列島の各地で周年獲れますし、骨離れの良いさっぱりとした白身ですので、時季を問わず美味です。当市場には地元神奈川産をはじめ、千葉、静岡、福井、鳥取、島根、瀬戸内、宮崎など四季折々、各地から入荷しています。

栽培漁業
カサゴは一度に出産する子供の数が多く親魚も容易に手に入る上、行動範囲が狭いことなど栽培漁業に適した条件を備えています。加えて市場価値が高いことも重要な要素です。栽培漁業とは稚魚を人工的に育て、その放流によって資源を増やして採取する漁業のことです。成長速度や回収率の点でまだ課題も多いですが、できる限り自然に近い状態で資源を増やす試みとして大いに注目されます。

名前の由来・・・親しみを込めて?外道扱い
サゴの由来は、現在、一般的に漢字表記されている「笠子」と、「瘡魚(かさご)」由来説の二つがあります。笠子は頭でっかちでトゲが多く、大きなヒレが張り出している様が、笠をかぶっているようだからというもの。一方、瘡魚の瘡(かさ)とは、デキモノのことで、ゴツゴツした頭や模様が、その跡のように見えるからというものです。

磯のカサゴは口ばかり
大昔から人のそばに住み(いえ、人が海辺に住んだのでした。)、容易に手に入れることができたカサゴは、貴重な食料としての有り難みを忘れさせるほど馴れ親しまれてきたようです。「磯のカサゴは口ばかり」ということわざは現代にも伝わっています。これは、口先ばかりで実行の伴わない人を指しています。磯にいるカサゴは口(頭)ばかりがやたらと大きくて、食べられる身が小さいからだと言うのです。う〜ん、当たっているかも知れないf^_^; 。でも、これくらいならカサゴにとっても許せる範囲でしょう。ところが・・・。

あんぽんたん(-.-#) つら洗わず(`_´)
カサゴの俗称に安本丹(あんぽんたん)と言うのがあります。これは愚か者をののしっていう言葉です。その由来を広辞苑で探したところ、「寛政の末この魚が江戸に出回ったが、味がよくなかったのでいう」とあるではありませんか。さらに、全体が黒っぽくまだら模様で、眼の周辺も黒ずんで見えることから顔が汚い、「つら洗わず」とも呼ばれたのです。釣り人からは外道扱いされ、さんざんな言われよう。ここまで来るとイジメですね。でも、カサゴにとっては幸いなことでした。味の判らない安本丹に食べられずにすんだのですから。
ん?江戸っ子のことだから仲間の前ではそう言いながらも、影でコッソリ「安本丹も捨てたもんじゃねえなあ。」などとつぶやきながら実は食べていたのかも・・・。

端午の節句の祝い魚
カサゴの一見怖そうな風貌は、不評ばかりではありませんでした。同じく江戸時代の武家には、勇ましい武士像と重ね合わせて、栄えある「端午の節句の祝い魚」に抜擢されたのです。そう言えば、あのゴツイ頭は笠というより兜(かぶと)そのものですね。

うっかり、残念、カサゴ!?
近縁にウッカリカサゴという愉快な名前を持つ魚がいます。これはカサゴがうっかりしている訳ではなく、それを見ていた人間がうっかりしていたことから名付けられました。この名前が付いたのは最近のことです。1978年にカサゴにそっくりな魚がソ連の学会誌に新種として発表されたました。この後、阿部宗明博士は「日本の魚類学者もうっかりして新種と気づかなかった」と、残念な気持ちをこめて「ウッカリカサゴ」という和名をつけたそうです。先生もかなりユーモアがありますね(^^)。

たくさんの地方名・・・標準名では通じない?
日本各地にいて昔から親しまれていたカサゴは、たくさんの地方名を持っています。カサゴという名前は元々三崎・相模地方の呼び名でした。関西ではガシ・ガシラ、瀬戸内・宮崎ではホゴ、鳥取・島根ではボッカ、鹿児島・熊本ではアラカブ、岡山ではアカチン・アカメバル等々実に様々です。

目利きのポイント
体の斑紋が鮮明で皮に光沢があり、腹部に張りがあること。エラが鮮血色をしていること。眼球が白くなっていても中心が澄んでいれば大丈夫。また、大きく口を開けているのは鮮度落ちとは関係ありません。

調理のコツ・・・
頭や背ビレのトゲが鋭いので押さえる時に気を付けてください。ウロコは特に取れにくいということはありませんが、胸ビレや腹ビレの付近は軟らかいので丁寧に。肉は引き締まった白身で身崩れしにくくクセが無いのでイタリア料理やフランス料理にもよく使われます。ぶつ切りにしてブイヤベースにすると美味いですよ。ただ、小骨も多いので丸飲みせずに、舌で探ってから飲み込んでください(^^)。定番イチオシは甘辛煮付け。空揚げや蒸し物、鍋物、味噌汁、鮮度が良ければもちろん刺身も美味しいです。是非チャレンジしてみて下さい。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2006年3月号