◆◇◆夏の天ぷら魚の話◆◇◆

天ぷらと言えばメゴチ、メゴチと言えば天ぷらと言うほど、関東では天ぷら種としてポピュラーな存在です。そのため、小売店では姿のままのメゴチにはなかなかお目にかかれません。ほとんどが天ぷら用として松葉おろしになっているからです。

メゴチってこんな魚です
メゴチというのは一般的に関東での呼び名で、標準和名はネズミゴチといいます。ところがこの名は流通名としてはほとんど使われていません。関西ではガッチョ、瀬戸内ではテンコチなどが通称です。

体長20cm弱の小さな魚です。コチ類のように上から押し潰したような平たい三角形の頭をして頬が左右に張り出し、その先端のエラ蓋にトゲを持っています。エラ孔は極端に小さく上向きです。眼は頭頂近くにあり、やや飛び出しています。また、小さな口は前下方向に突出しています。粘液で覆われた胴体は細長く体色は背中は褐色、腹側は白色でウロコがなく地味な色合いですが、大きく美しいヒレを持っています。

生態・・・
ネズミゴチはスズキ目ネズッポ科に分類され、世界に18属130種、日本には35種が分布しています。近縁にはハタタテヌメリ、ヌメリゴチ、トビヌメリ、ヨメゴチ、ベニテグリなどがいますが、姿形がよく似ている上に、それぞれオス・メスで背ビレの模様が違うなどの性差があるため、正確に見分けることはかなり難しいです。当市場ではネズッポ科の仲間はすべてメゴチと総称され流通しています。というよりも、区別する必要性を端から感じていないかのようです(^^ゞ。また、本家のコチ類はカサゴ目コチ科でネズッポ科とは縁遠いのですが、この仲間に標準和名メゴチがいますので余計紛らわしくなっています。一見姿は似ていますが、ネズミゴチはコチ類の子供ではありません(^^)。

新潟県、宮城県以南から東シナ海・南シナ海の沿岸域の水深20m位までの浅い砂泥底が住みかで、胸ビレを使って海底を滑るように遊泳します。底生魚ですが下向きの小さな口が示す通り、エサは頭上ではなく海底にいます。貝類やゴカイ、ヨコエビなどの底性生物を吸い込むように捉えます。

産卵期は春で、ペアになったオスとメスが海面近くまで上昇し産卵、放精します。受精卵は約20時間後に孵化します。仔魚は全長わずか1.2mm 位で、1ヶ月ほどの浮遊生活を経て約1cmに成長してから底性生活に入ります。寿命は2〜3年と言われています。

立派な外道!
メゴチの生息場所はキスと重なります。キスは人気の高い釣り魚です。臆病で俊敏で美しい姿のキス、釣りの難しさと掛かった時の引き味は釣りの醍醐味を堪能させてくれます。対してメゴチは、弱い当たりで無抵抗?おまけに釣り上げてみると頭でっかちの褐色不細工で、ヌルヌルに覆われている上にトゲまである。キス狙いの釣り師がメゴチを釣り上げた時の落胆の色!
メゴチにすれば不幸にも釣り上げられてしまったのに、釣り師には酷い言われよう。「ヘボッ!」と怒りたいのはメゴチの方です(`_´) 。

メゴチの真価を知っているベテラン釣り師にとっては立派な外道です。鮮度の良いものを刺身にすれば、生きたクルマエビを思わせるプリップリの歯ごたえと口中に広がるまろやかな甘味!キスの刺身のさわやかな旨味に勝るとも劣りません!どちらが釣れても大正解なのです。それにしても、メゴチの釣り味は「本当に面白くない!」そうです(^_^;。

名前の由来
ネズミゴチの「コチ」はコチと姿が似ているためですが、この由来は神官が持つ<しゃく・こつ>に体形が似ていることから付いた、またはもっと単純に骨が硬いことからコツ(骨)、いずれもそれが<コチ>に変化したというものです。ネズミはもちろん顔からの連想です。また、科名のネズッポですがこれは以前はノドクサリ科という名前でした。「喉腐」です。これは今でもネズッポ類の地方名として残っています。由来は死後の腐敗が早く刺激臭を放つものがあることからつきました。

他にも地方名は数多くあります。ただ、どれもネズッポ類の総称として混同されているため、同じ名前でも地方によっては違う種を指す場合もあります。関西のガッチョとは餓鬼魚(ガチウオ)が訛ったと言われます。餓鬼とは亡者のことですが、姿が卑しいという意味のようです。他にもジンタ・メトジ・メメダレゴチ・ヨドゴチ・ウシロデなどなど、名前だけ聞くと、食べる前に腰が引けてしまいそうなものばかりです。でも、このような呼び名は、食べないから付けた訳では勿論ありません。逆に、親しみの一つの表現でもあるようです。

天ぷらの由来
メゴチ料理の定番である天ぷらの歴史は安土桃山時代にさかのぼります。天ぷらの名の由来は諸説ありますが、宣教師等が伝えた南蛮料理の中に鳥獣の肉を食べないキリスト教の祭日テンポラ(イタリア語)があり、この時の魚料理が天ぷらだったと言います。または、調理という意味のテンペロ(ポルトガル語)に由来するという説などもあります。

目利きのポイント
丸のままのメゴチに出会った場合は、表面のヌメリが透明であること、体に張りがあること、臭いがきつくないことがポイントです。松葉下ろしになっている場合は、身に透明感があって弾力があるものは新鮮です。

エンジョイ・クッキング
メゴチの天ぷらを自分で揚げたことがないという方、是非挑戦してみて下さい。鮮度の良いメゴチ(下ろしてあるもので良いです。)を使い、表面の水気をよく取って、衣は身側は薄く、皮側はやや厚く付け、油の温度は180度、油に入れる時には皮を下にして鍋の縁を滑らせるように入れ、カラリと揚げることがコツです。姿のままのメゴチに出会えた時の参考に松葉下ろしの仕方を「資料館」に画像付きで掲載しましたのでご覧下さい。天ぷらの他には、釣り好きでないとなかなか手に入りませんが、刺身が最高です。他にも煮付け、塩焼き、酢の物、椀種等々、様々な料理で楽しめます。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2006年6月号