◆◇◆カニ王国の一番人気の話◆◇◆

日本の「三大蟹」と言えば、タラバガニ、ズワイガニ、毛ガニです。タラバ、ズワイに比べれば毛ガニは小型で食べる手間がかかるので、敬遠する人がいるかも知れません。でも、その身肉の美味さとミソの濃厚な味わいは、カニ王国北海道の一番人気という評価も十分納得できますね(^^)。

毛ガニってこんなカニです・・・
毛ガニは十脚目クリガニ科ケガニ属に分類されます。近縁のクリガニとトゲクリガニも食用にされますが毛ガニの代用品の扱いで評価は低く、価格はかなりの開きがあります。
毛ガニの特徴はその名の通り、全身が短い剛毛と無数の顆粒で覆われていることです。甲はやや縦長の各丸四角形でタラバやズワイのように硬くはありません。甲長は最大で15cmほどになります。ハサミ脚と歩脚には鋭い突起(トゲ)がたくさんあります。体色は黒味がかった赤褐色です。

毛ガニがブクブクと泡を吹いていることがあります。一見、怒っているかのようですが、とんでもありません。これは呼吸困難になったシグナルです。カニが長時間陸上で生きていられるのは、エラが海綿のように水分をたくさん蓄えているためです。この水分が尽きかけるとベタついて空気と混じり泡になるのです。

毛ガニは宮城県以北の太平洋側、鳥取県以北の日本海側、オホーツク海、ベーリング海からアラスカ沿岸部の水深30〜200mの砂泥底に分布しています。

▼生態と旬
毛ガニは脱皮を繰り返して成長します。ふ化した幼生は脱皮して2.5mmほどの稚ガニとなり着底します。その後も脱皮を繰り返し、生後1年で甲長2〜3cm、2年で4〜5cmに成長します。その先はオスの方が成長が早く、3年で5〜7cm、4年で7〜9cmになります。メスは3〜5年で5〜6cm、6〜8年で6〜7cmと大きく差がつきます。これは産卵するメスの方が脱皮する間隔が長いためです。成長するとエサはプランクトンから多毛類、貝類、他の甲殻類、小魚などの底生生物になります。逆に敵は、稚ガニのころはタラやクラゲなど多数いますが、成長すると最大の天敵はミズダコです。

毛ガニの旬は冬とも夏とも言われますが、これは海域によって漁期が異なるためです。流氷が去って遅い春が訪れるオホーツク沿岸の紋別の毛ガニ漁は3〜8月。岩手では12〜3月です。それぞれの漁期に水揚げされた物が旬の味と言えます。

▽結婚〜産卵-----長い時間が掛かります
毛ガニのオスとメスは、普段は住んでいる水深が違います。夏から秋の結婚シーズンになると、オスは上方に住むメスのエリアへ出向きます。これはと思う相手を見つけるとオスはハサミ脚でメスを背後から抱え、メスの承諾を数日間待ち続けます。OKのサインはメスの脱皮です。この体勢のままメスは脱皮します。

カップル誕生のおよそ1年後にメスは体内の卵(内子)にオスから受け取った精子の一部を与え受精させます。受精卵は卵塊にして体外に出し、腹に抱えます。これを外子と呼びます。この外子を抱えたまま、ふ化するまで1年あまりを過ごすのです。

メスは交尾するのは生涯に一度だけです。その後の産卵の時にも、体内に保存してある精子を使うのです。産卵数は甲長6cm前後のメスで4〜6万粒と言われます。

▼かご漁・・・厳しい漁獲規制
かつては刺し網や底引き網で漁獲されていましたが、現在では傷付けずに生け捕りできる「蟹かご漁」です。これは、円錐形の蟹かごの中央にエサを入れる小さな穴だらけのブリキ缶を吊し、臭いに惹かれて集まって来た毛ガニが開いている天井からカゴの中に落ちる仕組みです。カゴは導網に10m位の間隔で取り付けられ海底に沈められます。エサは北海道ではイカやキュウリウオのブツ切りを使います。

翌日網を引き上げ、カゴの中に囚われの身となった毛ガニを選別します。御法度はメス、甲長8cm未満、そして脱皮直後のカニ(水ガニと呼びます。)です。これらは船上から海に帰されます。漁期は海域ごとに決められていますし、漁のできる船の隻数、漁期中の水揚げ総量、1隻が使えるカゴの数にいたるまで厳しく規制されています。

▽長万部(おしゃまんべ)の名物
毛ガニは今でこそ高価な人気者ですが、その歴史は浅く、一般に広く食べられるようになったのは戦後のことです。北海道の長万部で戦後間もない食糧難の時代に毛ガニが豊漁となり、塩茹でしたものを「煮ガニ」として駅で販売したところ大人気となりました。昭和25年には「かにめし」弁当が登場し、以来現在に至るまで長万部の名物駅弁として有名です。

▽カニ缶と蟹工船
カニ缶と言えば高級缶詰の代名詞となっていますが、大量に製造されるようになったのは20世紀初頭からです。当時は沿岸でも豊富に獲れていたタラバガニから始まり、次いで毛ガニになりました。乱獲によって沿岸の資源が枯渇すると、洋上で加工処理をする母船式タラバガニ漁が盛んになりました。これは蟹工船と呼ばれ、昭和4年に出版された小林多喜二の同名の小説で知られます。戦時中の休業期間を経て戦後復活しましたが、毛ガニの漁獲量は昭和30年をピークに激減し、替わってズワイガニが中心になりました。

▼名前の由来・・・
毛ガニの由来はもちろんその姿です。これに異説はありません。昔は別名にオオクリガニというものがありました。英名もHair crab 。中国名も毛蟹。やはり誰が見ても毛ガニなのです(^^)。

▼養殖はできません
毛ガニは成長が非常に遅く、しかも困ったことに、稚ガニの時代に狭い所に押し込めると激しく共食いしてしまいます。養殖の研究はもちろんされて来たのですが、これらの難問を解決できません。結局商業ベースに乗せるのは困難ということで、稚ガニの段階まで育てて放流することになりました。

▼目利きのポイント・・・
冷凍物であれば、体の色が濃くてズシリと重いこと。甲羅や脚の関節が黒ずんでいないこと。活物の場合は元気が良くて重いことがポイントです。

▼毛ガニパワー全開!
カニなどを加熱すると赤くなるのはアスタキサンチンというカロチン色素の作用です。これを摂取すると体内でビタミンAに変わり、動脈硬化やがんの予防、老化防止などの効果があります。また、血圧を正常にして、心肺機能の強化に貧血予防、悪玉コレステロールの減少や肝臓強化に胆石や動脈硬化予防、疲労回復や視力の向上など多くの効能を持つタウリンが豊富です。さらに、高タンパク低カロリーのダイエット食品でもあります。

▼エンジョイ・クッキング
毛ガニはやはり塩茹でですね。ほぐした身を毛ガニのミソをつけながら食べるのが最高です。他の料理にするのはもったいないと思ってしまうほどです。ちなみにミソとは、肝臓と膵臓を併せ持ったような機能を持つ臓器で、グリコーゲンなどが多く含まれています。でも、違う食べ方も楽しみたい時には、活物なら刺身やしゃぶしゃぶ、ボイルの冷凍品ならグラタンやスープ、揚げ物などもおすすめです。殻は煮出すと美味しいダシが出ますので、かに飯や雑炊、味噌汁などに使うと毛ガニの旨味を余すことなく堪能できます。

▽茹で方
生きている毛ガニを茹でるには、体に付いているおが屑などの汚れを流水で洗い落とし、脚を輪ゴムなどで胴に固定します。鍋に毛ガニが隠れるくらいの水を張って3%ほどの塩水を作ります。これを沸騰させてから毛ガニを入れて蓋を閉め、15〜20分茹でます。茹で過ぎは禁物です。

▽解凍と温め方
電子レンジでチン!だけはしないで下さい。旨味成分が失われて水分と一緒に流れ出てしまいます。一番良いのは冷蔵庫内での自然解凍です。この時、甲羅を下にして新聞紙かキッチンペーパーに包んでおきます。こうするとミソ等が流れ出しません。まだ少し凍っているかなという程度が食べ頃です。解凍した物を温めたい場合は、鍋に2cm位の水を入れ、アルミホイルを敷いてやはり甲羅を下にして置きます。蓋をして3分沸騰させれば十分です。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2006年12月号