◆◇◆味も姿も良いエビの話 vol_1 クルマエビ◆◇◆

日本人は世界一のえび好きです。一人当たりの消費量、輸入量とも世界一なのです。和洋中と料理方法は多彩で、プリプリの食感と甘味のある旨さが身上です。小売店ではパックされた輸入の冷凍エビが主体で、色や模様も原産国によ って様々です。価格はほとんどサイズの大小で決まっているかのように見えます。そんな中、クルマエビを探してもなかなか見つけることができません。ようやく百貨店の鮮魚売場で、生きているクルマエビに出会ってみると「・・・ た、高い・・・(^_^;」。庶民の味方だった江戸前のクルマエビはどこへ行ってしまったのか・・・。
惣菜としてはすでに高過ぎるので、もっぱら料理飲食店向けとなっていたのです。天ぷら屋に行って食べる揚げたてのクルマエビ、最高ですね(^^)。

クルマエビってこんなエビです・・・
クルマエビは十脚目クルマエビ科クルマエビ属に分類されます。クルマエビ属は世界に28種、クルマエビ科は120種を数えます。世界のエビ漁獲量の何と9割以上をこのクルマエビ科だけで占めています。仲間のウシエビ(通称ブラックタイガー)やコウライエビ(大正エビ)など多産する種が多い中、特に活物として評価の高いクルマエビの流通量は少ないため、高値で取引されています。

クルマエビはだいたい20cm位に成長しますが、最大では25cmを超えます。体色は住む環境によって茶系、青系、黒系と異なりますが、多くは淡い褐色の地色に茶褐色の太い縞模様が鮮明です。また、尾には鮮やかな青と黄色の縞模様が1本ずつ配されています。

日本では、日本海側の青森県以南、太平洋側の仙台湾以南からオーストラリア北部にかけての西太平洋、インド洋、紅海、地中海東部の沿岸域に広く分布し、内湾の干潟から水深100mほどの砂底が住みかです。クルマエビは熱帯の河口域で発生し、次第に温帯域に広がって行ったと考えられています。生息可能水温は6〜35度、適水温は20〜25度で、5度以下になると仮死状態になり、やがて死んでしまいます。

▽クルマエビの美味さの秘密-----旬
クルマエビはエビ類の中で最も美味と言われます。その甘味は遊離アミノ酸であるグリシンに由来します。また、この他の旨味成分も含めて、クルマエビはエビ類の中で最も多い含有量を誇っているのです。これらの成分は季節によって変動しますが、最も高い値を示すのは12〜2月頃で、それ以降、産卵期には最も減少します。

▼生態・・・成長に応じて住みかを変えます
成体のクルマエビは夜行性です。昼間は海底の砂に浅く潜ってじっとしていますが、夜になるとエサを求めて動き出します。雑食性で藻類やゴカイ、貝などの小動物を捕食します。交尾・産卵期は夏です。産卵は沖合で行われます。クルマエビ科は、アマエビなどのように卵を腹に抱えるのではなく、海中に産み放ちます。その数は70万粒以上です。

受精卵は13〜14時間で孵化し、成体とはほど遠い姿の幼生期はプランクトンとして浮遊生活を送ります。この間に12〜13回も脱皮を繰り返してようやくクルマエビの姿に変身します。やがて、稚エビは潮に乗って河口、汽水域へ移動して底生生活に入りそこで成長します。成長するにつれて生活圏を湾岸から沖合、外海へと移していきます。そして翌年には産卵に加わります。

メスの場合は1年で16cm、2年で21cm、3年で24cm位に成長します。寿命は最長で満3年と推定されています。成熟が始まるとオスの方が特に成長速度が遅くなるため、20cmを超えるクルマエビのほとんどはメスです。

▽活クルマエビとおが屑
クルマエビは稚エビ時代を干潟で過ごします。たとえ引き潮に取り残されても数日間は海水なしに生きていけます。それは頭部の殻の下のエラに水分を蓄えておけるからです。これを利用してクルマエビを生きたまま、消費地へ送る方法が考え出されました。箱詰めする時におが屑を使うのです。おが屑がエラの蓋になって水分が無くなるのを抑え、同時にクルマエビが暴れることもできなくしています。

また、クルマエビをおとなしくさせる方法は温度を下げる(8〜15℃)ことです。この温度帯なら体力を消耗させず、長く保存することができます。5℃以下にすると死んでしまいますので、冷蔵庫へは入れません。活クルマエビを調理する場合には、氷水に入れておとなしくしてから始めます。こうすれば、まな板の上で暴れて大騒ぎすることはありません(^^)。

▼名前の由来・・・出世エビです!
一般にはあまり知られていませんが、クルマエビは成長するにつれて名前が変わる「出世エビ」です。10cm以下のものをサイマキ(細巻)またはコマキ(小巻)、15cmほどをマキ(巻)またはチュウマキ(中巻)、それ以上のものをクルマエビ(車海老)、さらに大きいものを大車(おおぐるま)と呼びます。車海老の由来は、丸まった時に縞模様が丁度、車輪のように見えることだったようです。

▼養殖が盛んです---沖縄県はクルマエビの生産量日本一
クルマエビは漁獲しやすい岸近くにいて成長が早く、しかも市場価値が高いとあって、養殖には最適と思われる存在でした。1930年代に養殖の研究が始められ、60年代にはエビとしては最初の養殖業が広まり、88年(S63年)にはピークを迎えます。当時の主産地は山口、愛媛、大分県でしたが、その後ウイルスの発生で激減し、現在では沖縄、熊本、鹿児島の3県で全国生産高の8割以上を占めています。ちなみに、このウイルスは人には影響を与えません。

▽沖縄県久米島---周辺海域に天然物はいません!
1970年代に沖縄でもクルマエビの養殖が始まりました。現在では久米島も大きな養殖産地となっています。つい最近、この様子がテレビで放映されました。海水を引き入れた養殖池は一見、かなり濁っています。島を囲む遠浅の海辺が南国の陽光を浴びて透き通っているのとは対称的です。これはクルマエビのために、あえてプランクトンを発生させて濁らせているのです。と言うことは・・・この自然の中ではクルマエビは生きていけない?
そうです。過去に何度も台風などの高波で、池のクルマエビが外海にさらわれても、島の周辺で天然?のクルマエビを漁獲したことはないそうです。

▽天然と養殖の味の違いは?
天然と養殖の味の違いを決定付けるのは体に含まれる脂肪分です。配合飼料などを与え続けると、これが脂肪分を作り、脂肪臭となって味覚を大きく左右することになります。ところが、クルマエビは脂質が極めて少ないため、この違いがほとんど感じられません。養殖も天然と同じアミノ酸が旨味成分なのです。と言うわけで、両者は価格帯もそれ程変わりません。

▼目利きのポイント・・・
活クルマエビならもちろん元気の良いものなのですが、温度を低めにしてあるとあまり動きません。体に透明感があって縞模様が鮮明なことがポイントです。冷凍有頭の場合は内臓が詰まっている頭部が黒くなっていないこと。無頭なら背わたが溶けたように滲んでいるものは避けてください。

▼エビパワー全開!   低カロリー高タンパクの健康食品
エビは低カロリー高タンパクの健康食品・ダイエット食品です。しかも必須アミノ酸のタウリンを多く含みます。これは血圧を正常にして、心肺機能の強化に貧血予防、悪玉コレステロールの減少や肝臓強化に胆石や動脈硬化予防、疲労回復や視力の向上など多くの効能を持つことで知られます。

▼エンジョイ・クッキング・・・生で食べるより、茹でた方が旨い
クルマエビと言えば天ぷらと寿司、それから、ただ茹でただけの物を塩をつけながら食べる。また、これを酢の物にする。他にも鬼殻焼きや唐揚げ、フライも美味いですね。生きたまま食べるオドリも食感と甘味が堪りませんが、通人?曰く、生で食べるのは邪道だと言います。クルマエビは熱を加えてこそ、本来の旨味と香りが生きるのだと。寿司屋でも茹でて冷水で冷やし、芯を人肌に冷ました物を握るのを最上とします。クルマエビは世界各地に分布していますので、もちろん中華や西洋料理もたくさんあります。洋風の場合はソースが決め手です。それぞれが素材を生かすことを追求しています。


■メールマガジン<お魚よもやま情報>2007年1月号