◆◇◆富山湾の宝石の話◆◇◆

横浜市場ではシロエビが通称です。以前から生鮮品としても入荷していましたが、生食向けではなく鮮度が落ちて白くなった、まさに白エビでした。そのため評価が低く、あまり人気のない小エビでした。土地柄で、同じ時期に駿河湾で獲れるサクラエビが不動の主役なのです。ところが近年、様子が変わってきました。シロエビが宝石の輝きを放ち始めているのです・・・(^^)。

シラエビってこんなエビです・・・・
シラエビは十脚目・オキエビ科・シラエビ属に分類される体長7cmほどの小型のエビです。日本近海では富山湾の他、新潟糸魚川沖、駿河湾、相模湾、紀伊半島など各地に広く分布し、海外では地中海や北太平洋でも近縁種が分布していますが、いずれも少量が混獲される程度で、大量に漁獲されるのは富山湾だけです。冷水域を好む深海性の遊泳エビで、水深40〜300mの範囲に生息しています。

体は左右に扁平で頭部・胸部が小さく腹部が大きい体形です。生きている時は体が透明で脚部・尾部の先端が紅色のため、捕獲された船上では透き通った淡い桜色に見え、まさに美しい宝石の輝きです。ところがこの透明感は死後、時間の経過とともに急速に失われ、白色に変色してしまいます。

代用品から主役へ (^-^)
シラエビの漁期は4〜11月で初夏が盛漁期です。この時季に鮮度落ちの早いシラエビを生で食することは地元でもありませんでした。もっぱら乾製品として、しかも食紅で着色までして、サクラエビの代用品として流通していました。また、シラエビは小型であるため、殻剥き加工するには手間が掛かり過ぎることもあって、長い間下積み生活を送っていたのです。

本来、シラエビは伊勢海老や甘海老よりも甘味が強い上に肉質も締まっている「上等な食材」なのです。ところが流通のネックになっていたのが、鮮度保持と殻剥きの手間だったわけです。これが解消されたのはわずか25年ほど前のことでした。

地元の料理人が漁師と協同作業で鮮度保持に努め、刺身や寿司ネタに使える食材に育てました。時を同じくして、自動殻剥き機が考案され、冷凍シラエビから容易に剥き身が作れるようになりました。これが折からのグルメブームに乗って大消費地へ出荷され人気を得ていきました。需要が急増しても漁獲量は限られているので価格は当然上昇しました。

でも、消費地で宝石本来の輝きを放ち始めたのは、ほんのここ数年のような気がします。鮮度保持技術と輸送手段の進歩によって、高鮮度品が届くようになったのです。透明感のあるシラエビの姿を見ることができなければ、その真価は残念ながら発見できないでしょう。日本料理は目でも味わうのですから。

紅白のエビブランドが連携
全国的な知名度の点では、まだサクラエビの方が一歩も二歩もリードしています。地元富山ではサクラエビに追いつけ追い越せとばかりに「シロエビブランド化作戦」を展開中です。その一環として、富山県の新湊漁協がサクラエビの大産地静岡県の由比漁協と姉妹漁協となって、互いの名産品を共同でPRするという企画が始まりました。それぞれが開催している「えび祭り」で、紅白両方のエビを味わうことができるという一石二エビの企画です。

名前の由来・・・かえってややこしい?
シラエビの由来はもちろんその色ですが、語感が良いためか地元富山でもシロエビと呼ばれています。しかし、標準名のシロエビは別にいますし、地方名としてシラエビと呼ばれるエビもいます。何だかややこしいですが、知名度を上げた者勝ちですね。他にも地元では、左右に平たいためヒラタエビ、あるいはベッコウエビとも呼ばれます。

生態・・・まだまだ謎ばかりです
産卵期は7〜11月で、メスは体長5.5cm位で成熟し産卵するようになります。卵は1〜2mmの楕円形でその数はおよそ300個。ふ化するまでの間、この卵をメスが腹肢で抱えて保護します。ふ化した幼生の体長は1.5cmほどで海中を浮遊し、プランクトンを食べて成長します。寿命は2年から2年半と思われ、メスは一生の間に2度産卵します。

昼間は水深150〜300mを群泳していますが、夜には水深100m以浅まで上昇し、明け方には再び深みに戻るという周期的な深浅運動を繰り返します。このシラエビの習性に適した海底地形、適水温、豊富なエサという条件をすべて兼ね備えているのが富山湾、それも庄川、神通川、常願寺川といずれも大きな河川の河口部の沖合で、海谷(かいこく)と呼ばれる深く切れ込んだ海底の谷をもつ一帯に限られるのです。この海谷は「あいがめ」と呼ばれます。

オンリー・ワン!富山湾(^-^)
富山湾の名物と言えば、寒ブリにホタルイカにシラエビ、そして蜃気楼。さらに、日本海に分布する800種の魚のうち何と500種もの魚が分布することから「天然の生け簀」と称されるのが富山湾です。これらはすべて自然の造形の賜物です。

3千m級の立山連峰から雪解け水や雨水が大河となって富山湾に注ぎ込みます。海底斜面は急勾配で一気に1200mもの深みへと落ちていきます。海谷あいがめは藍瓶と書きます。藍色の瓶です。谷が急激に深くなるため海の色が周囲と比べ、際立って藍色に見えるからです。大地の栄養分が大量に補給され、絶好のエサ場となります。表層を流れるのは対馬暖流ですが、その下層は冷たい深層水です。暖水系、冷水系どちらの魚にとっても最高の住環境なのです。

世界に誇る定置網漁は富山発!
この天然の生け簀を前にして考案されたのが定置網漁です。魚の通り道に網を仕掛け、入り込んだところを引き揚げるというシンプルな漁法です。日本各地の沿岸でごく普通に行われている漁法ですが、環境破壊や資源保護が大問題となっている今、あらためて世界の関心を集めている「海にも人にも優しい」漁法なのです。
シラエビは藍瓶の限られたポイントで早朝、小型底引き網によって漁獲されます。

シラエビパワー全開!
殻ごと食べる場合はカルシウムとキチン質などを丸ごと摂れるますので、骨粗そう症や糖尿病、高脂血症などの予防効果が期待できます。また、コレステロール値を下げるEPAやDHA、タウリンなども含まれています(^^)。

目利きのポイント
殻に艶があって透明感の残っている物であれば刺身で食べられます。すでに白くなっていても加熱調理するのなら問題ありません。さらに鮮度劣化が進むと頭部などが黒く変色してきます。

エンジョイ・クッキング・・・
少々高級品になってしまいましたが、店頭で鮮度の良いシラエビを見つけたら是非、料理に挑戦してみて下さい。何と言っても刺身ですが、小さくて柔らかいので殻を剥くのは一苦労です。テレビで女工さんが手際よく、尾の方から身を押し出している様子が放映されていましたが・・・(^_^;。
どのように料理する場合でも、まずヒゲだけは切り取って下さい。生、またはさっと茹でたものを三杯酢やドレッシングに漬けると殻が柔らかくなりますので、野菜や海藻に添えてサラダに。ゴマ油で殻に焦げ目がついてパリパリになるように炒めるだけでも。炊き込みご飯にすると、これまた美味い。そして定番はかき揚げ。こんな簡便料理でも美味い物は美味いのです(^^)。


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